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風紋記事

2013/10/10

 400勝投手・金田正一さんの講演を聞いた。少し膝が悪い様子だったが80歳とは思えないエネルギッシュな話しぶりだった。弱小チーム国鉄スワローズのエース時代、チームメイトの守備が下手でエラーが多いため「バックを信じない」ことを肝に銘じていたという▼凡フライに打ち取ったと思ったら、仲間のエラーで失点。はらわたが煮えくり返っている金田さんに、ベンチの監督は「金田よ、ここで踏ん張ってこそ真のエースぞ」と励ました。金田さんは思わず「ほっとけ、くそじじい」と怒鳴り返したという。そう回想する金田さんは、今も腹の虫が収まらない、という感じで声を大きくする。子どもみたいだった▼話の随所から誰にも頼らない、人を安易に信用しないという姿勢がにじみ出ていた。生き馬の目を抜く厳しいプロの世界では「みんな仲良く」というアマちゃんの論理は通用しないのだろう▼金田さんは長嶋茂雄さんのことにも触れた。「(長嶋は)パーティであいさつする時は、必ずわざと遅れてくる。そうすると一人だけ目立つから。アイツは本当に単細胞」と笑った。しかし、これもまた「目立ってナンボ」という、強烈なプロ根性の表れなのだろう▼「仲間を信じよう」とか「皆の心を一つに」などという、ゆるい言葉が幅を効かせる世の中で、昭和のサムライたちの激烈な言葉と生き方は、まぶしい輝きを放つ▼今も威風堂々とした態度を心がけ、ファンの夢を壊さないように気をつけているという金田さん。ファンから「老けましたね」と言われるのが一番辛いのだという。(桑原)