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風紋記事

2013/10/11

 増田俊也の自伝的小説「七帝柔道記」を読んだ。七帝(ななてい)柔道とは北大、東大、京大など七つの旧帝国大学のみで、戦前から行われている寝技主体の特殊な柔道。年に一度だけ七大が集まり大会が行われている。主人公は北大柔道部に入り、この七帝柔道に打ち込む。部の目標は最下位からの脱出…。作者自身の体験に基づいた実話である▼この地味な小説が話題を呼んでいるのは、そのあまりの稽古の厳しさ、学業はそっちのけで猛練習に取り組む姿勢の凄まじさ、そして熱い団結力が読む者を圧倒するからである▼彼らの試合は、一般的な講道館柔道のように寝技の膠着による「待った」がない。寝技に引きこんで一本をとるまで延々と試合は続く。判定はない。絞め技で失神させたり、関節技で骨折させることも珍しくない。しかも時代は現代。国立大生がなぜそこまでするのか。優勝してもオリンピックに出られるわけではない。いやそもそも、スポーツ紙はおろか、柔道の専門誌にさえ、大会結果は報じられない大会なのにだ▼「スポーツ馬鹿」を通り越して、狂気すら感じさせる。このひたむきな無償の努力に、たじろがない者はいないだろう。読みながら「これは現実なのか」と頭がくらくらしてきた▼小説の舞台はもちろん北大キャンパスを中心にした札幌市だが、驚いたことに物語の終盤に紋別市への遠征シーンが出てくる。道都大紋別キャンパスで当時のインカレ大会が行われたのだ。その結果もまた物語の終章に向かって大きな意味をもってくる。興味のある人はぜひ御一読を。(桑原)