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風紋記事

2013/10/19

 マルクス主義の古典文献のひとつエンゲルスの「自然の弁証法」。マルクス主義と聞くだけで毛嫌いする人もいるだろうが、政治思想は抜きにして今読んでも驚かされる部分が多々ある▼エンゲルスは言う。資本家は目先の利益を求めて自然を改造していくが、大抵しっぺ返しを喰う。キューバのスペイン人農園主たちは、山腹の森林を焼き払いその灰によって、儲かるコーヒーの樹を施肥するのに十分な肥料を得た。その後で熱帯の豪雨が、何の保護もなくなった肥沃土を押し流し、その結果、裸の岩しか残さなくなっても、すでに儲けたあとの農園主には知ったことではない…と▼今から約140年前に書かれた原稿ではあるが、その警鐘は今も鳴り続ける。福島第1原発の汚染水問題を見るにつけ、安易に自然を征服しようとする人間の愚かさ実感する▼紋別市が誘致の正式決定に向けて力を入れている木質バイオマスの火力発電所。その経済効果といい、環境に配慮したクリーンエネルギーとしての特質といい、いいことづくめだ。しかしエンゲルスが言うように、自然の改造には予期せぬしっぺ返しは大なり小なりある▼だから反対だ、というのではない。市は漁業団体との公害防止協定の見直しも行ったというし、慎重に調査と準備を進めているのだと思う▼エンゲルスは安易に自然を改造することを批判したが「だから人は自然に還るべきだ」などと単純なことは言わなかった。人間は、自分が自然から生み出されたことを自覚しながら自然の諸法則を認識し、自然を正しく支配べきだ、と言ったのである。(桑原)