風紋記事
人は皆、自分だけは死なないと思っている、という。「オレはちゃんと死ぬ心構えも、準備もしている」と胸を張る人も、心の片隅では、ひょっとしたら自分だけは、と思っているらしい。なぜだろうか▼人は皆、自我を持ち、それゆえ自分だけは特別な存在だ、と大なり小なり思っているから、その「特別な自分」だけが、もしかしたら「死の法則」から逃れられるかもしれない、と考えるのは、ある意味では自然で、論理的だ▼だいいち、そのほうが生きる力も明日の希望も沸いてくる。いいではないか。非科学的な考えでも生きる糧になれば。ただ、特別で「かけがえのない自分」に自信をもちすぎると、墓穴を掘ることになる。現実は甘くない▼いまや国民的愛唱歌になっている「世界に一つだけの花」は一人一人の個性を重んじ、他人と比べ、競い合うことの愚かさを訴える。君は特別なオンリーワンなんだ、と励ましてくれる。しかし一方で「ありのままの自分でいいから」と努力を放棄し、居直る方便に使われる可能性もある▼市は「子ども夢アッププラン」で、子どもの夢や個性を伸ばす教育に力を入れるという。大賛成だが、一方で全国学力テストの平均正答率では紋別市は全国・全道平均を下回っているという事実も厳然としてある▼子どもは次代を担う宝。無限の可能性に満ちた存在であると同時に、成長後は有限な地域社会でその構成員として一定の役割を果たすことも期待されている。理想と現実のギャップは大きいが、そのバランスを正しく教えるのも教育。市教委の新しい取り組みに期待したい。(桑原)