風紋記事
私事で東京へ出かけたが、つくづく人ごみはいいなと思った。渋谷の街を闊歩する若者たちのファッションを観察するもよし、新橋駅前で企業戦士たちがせわしなく行き交う姿をながめるのもよし。銀座の歌舞伎座周辺を歩く和服の婦人たちとリュックサックの外国人たちとの対比も趣がある▼やっぱり人間観察は楽しい。動物園で一番見飽きないのは猿と相場が決まっているが、それは表情や仕草が人間に似ているからだ。ならば人間そのものを観察していたほうがもっと面白い、という理屈である。都会の人ごみを眺めるのは「人間たちの動物園」を観察する感じなのである▼「人ごみは大嫌いで、自然の中にいると落ち着く」と言う人も多い。植物の種類に精通していて、樹木はもちろん、野草やキノコの種類まで言い当てることができる人も珍しくない。感心するが、人ごみ観察でも同じようなことはできる▼あれは「セレブ科・不動産属」、こっちは「オタク科・アニメ属」、そっちは「中年サラリーマン科・窓際属・赤ちょうちん種」という具合だ。そうやって「目・科・属・種」に分類し、生態を観察することは、対象が植物や動物の場合なら、自然の法則を解明しているような気分になれるし、それが人ごみの場合なら、人間社会を貫く法則や景気の動向を分析しているような気になれる▼オホーツクの大自然に囲まれて暮らすのもいいが、たまに大都会の人ごみに入ってみることは大きな刺激になる。「東京なんか疲れるだけ」なんて言っていないで出かけよう。紋別空港を利用して。(桑原)