風紋記事
北方圏国際シンポジウムの分科会・氷海の民シンポジウムで、アイヌ民族出身のトンコリ奏者・オキさんの演奏を聞いた。トンコリは樺太アイヌが愛した5弦の琴。演奏では一定のフレーズがぐるぐると回るように何度も繰り返される。ミニマル・ミュージック(反復音楽)の一種といえそうだ▼よく聞くと繰り返しのなかに微妙な変化がある。変化し続けながら、安定的な平衡を保っているところが面白い。ありていの言い方だが、自然のリズムと似ている。例えば波の繰り返しとか、四季の循環とか▼オキさん演奏を聞きながら、フレーズを繰り返すことの意味はなんだろうか、と考えた。あるフレーズを聞いた時、人はその印象を脳に刻み、その印象をもって2度目に同じフレーズを聞く。するとそれは、すでに1度目を聞いた時の印象をインプットした上で聴き直しているから、印象がまた異なってくる。3度目も同様だ。つまり、同じことの繰り返しではあるが、そのたびに前に聞いた時の印象が更新されているから、何回繰り返されても新鮮な感じがするし、印象がどんどん強化されていく▼ステージのトークでオキさんは、宿泊先のホテルで、別のコンサートに出演するため来紋していた宝田明さんに会って感激した、と言っていた。少年時代、宝田さんが主演した映画「ゴジラ」の大ファンだったという。そういえばゴジラの音楽は伊福部昭の作曲で、あれはまさにミニマルミュージックだった。公演終了後の打ち上げでオキさんと話をしたが、ゴジラ音楽から受けた影響について尋ねるのを忘れた。しまった。(桑原)