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風紋記事

2014/04/05

 落語の噺で、ご隠居が近所の与太郎を評して「お前は、世の中ついでに生きているようなヤツだ」と呆れて言うことがある。叱っているご隠居も、そんな彼にどこか憧れている節がある▼「ついでに生きている」で思い浮かぶのはタモリだ。いわゆるお笑い芸人とは違って、受けてやろうとか、ビッグになろうとかいうさもしい根性がない。タモリの格言のひとつに「やる気のある者は去れ」というのがあるが、それこそ彼の生き方を端的に表している▼32年間続いたテレビ番組「笑っていいとも」が終わった。特に熱心に見続けていたわけではないが、レギュラーのタレントらとタモリが、最近あった面白いことについてダラダラと喋っているコーナーが好きだった。テーマもへったくれもない。だからよかった▼近代という時代は、筋の通った理論や、起承転結のある「物語」を追求し続けた。現代フランスの哲学者デリダは、そのアンチテーゼとして「脱構築」を唱え、体系をつくりあげようとするのではなく、解体すべきだと説いた▼そういえば「いいとも」がスタートしたのは1982年で、その翌年にはデリダに影響を受けた浅田彰の著作「構造と力」が大ベストセラーになった▼「いいとも」最終日の夜に放送された特番は、歴代のレギュラーらが登場し、タモリの労をねぎらった。タモリはやっぱり泣かなかった。最後も「明日も見てくれるかな」といつも通り終わった。「感動のフィナーレ」ではなかった。タモリは体系や物語が生まれそうな一歩手前で踏みとどまり、見事にすかして脱構築をやり遂げたのだ。(桑原)