←前へ ↑一覧へ 次へ→

風紋記事

2014/04/13

 NHK教育テレビの「日曜美術館」で現代ポップアートの奇才アンディ・ウォーホルの特集をやっていた。アメリカで人気のスープ缶の図柄をそのまま模写して何十枚も額に入れて並べたり、マリリンモンローのポートレイト写真にただ彩色しただけの作品などで知られる▼今回の放送で新たな事実として知ったのは、スープ缶の図柄を模したイラストさえも、スープメーカーが発行したダイレクトメールに描かれた図をそのままコピーしたらしいということだ。イラストはウォーホル自身の手によるものだと思っていたが、それすらパクリだった。やられた、と思った▼ウォーホルは高尚ぶっている芸術をあざ笑う。価値などないと考えているものに価値らしき意味を与えることで、我々が価値が高いと思い込んでいるものの無価値性を浮き彫りにする▼全聾の天才作曲家という触れ込みでデビューした佐村河内守氏は、そのニセモノ性を暴かれる前、インタビューに答え「暗闇の中にさしてくるひと筋の光のような音をつかみとって…」などともっともらしいことを言っていた。ニセモノほど、意味や意義の箔を付けたがる▼ウォーホルは生前「自分の墓には名前も何も書かなくていい。もし入れるなら『全部ウソ』」と言っていたという。なんていい言葉なんだろう。地位も名誉も全部ウソ。もっともらしい人生訓も哲学も全部たわ言。そこまで行くと高僧が説く「無の境地」かもしれない。いや「境地」などと意味づけること自体が、まだ意味にとらわれている。ウォーホルは「意味以前」を目指したのだ。(桑原)