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風紋記事

2014/06/05

 プロ野球は嫌いではないが、馬鹿騒ぎのようなスタンドの応援を見ていると引いてしまう。さらにがっくりくるのは選手らのヒーローインタビューだ。判で押したように言う「応援よろしくお願いします」▼この日本語に違和感を覚える人は少なくない。「応援」とは、人様からしていただくものであって「よろしく」などと頼む筋合いのものではない▼女子柔道で偉業を成し遂げた谷亮子選手は記録を更新するたび「前人未到の6連覇を達成できて」などと言うので多くの人が首を傾げた。前人未到とは、他人が賞賛して言うことであって、自分の口から言う言葉ではない▼スター選手の試合はテレビ局にとって視聴率のドル箱だから、誰も注意できないのだろうか。公共の電波で変な日本語が垂れ流され続けている。勝っても負けても馬鹿の一つ覚えのように「感動をありがとう」と礼賛するアナウンサーにもいい加減飽きた。そもそも「選手」をわざわざ「アスリート」と言い換える神経が、どうかしている▼そういえばワールドカップが開かれるブラジルで、巨額の公費を投入することに反対する一部の市民らがデモ行進をしているのが報じられていた。彼らは「サッカーより大事なことをやるべきだ」と怒っている。サッカー大国の陽気なブラジル人でさえ、こういう批判精神とバランス感覚を持っている▼それに対して日本人のスポーツ愛は、全体主義のような熱狂に近づいていないか。「東京オリンピックよりやるべきことがある」と疑問を投げかける人がもう少しいてもいい。(桑原)