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風紋記事

2014/08/22

 70年代に一世を風靡したロックバンドCSN&YのライブCDが最近発売になった。40年前、1974年の演奏集である▼当時ラジオで、このライブの海賊盤を聞いて以来、いつか正式な録音盤が出ないかと焦がれていた。正規盤に耳を傾けながら、自分はこれを聞くために生きてきたのではないかとさえ思った▼70年代のロックから日本の少年たちはジーパンとTシャツも、反体制の思想も、現代アートも全てを学んできた気がする。いまや凡庸な音楽になったロックだが、当時のスターは反逆のヒーローだった▼市立博物館で行われている特撮ヒーロー展の講座を聞いた。ウルトラマンなどのヒーローによって子どもらは勧善懲悪やチームワークを学んできたのではないかと講師は言う▼だが道徳を学ぶだけなら、イソップや日本昔話でもいい。子どもはイソップ絵本など放り出して、特撮ヒーロー番組に見入る。そこには大人の教育的な押し付けに対する子どもなりの反逆がある。子どもは正義のヒーローと同じくらい、悪の怪獣や無茶苦茶な破壊に憧れる。そこにこそ特撮ヒーローやロック音楽の本質的な魅力がある▼寓話は物事を単純な善と悪に分け、悪を撲滅して終わる。だが特撮ヒーローには繰り返し魅力的な悪が現れる。そしてロックでは暴力的な轟音がいつも鳴り響いている。勧善懲悪ではなく、善と悪が相克する世界。青少年は特撮やロック音楽に、世界の本質がよりよく表現されていることを直感で見抜く。この世の悪や混沌にどう立ち向かっていくか、教訓的な寓話よりずっと深く学んでいるのではないか。(桑原)