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風紋記事

2014/09/28

 世界第2位の音楽市場である日本では、全音楽の85%がCDで購入されている。しかも、時代の流れに逆行してオンライン配信による販売は減少している。世界でも稀な不思議な国だ−そんなアメリカの記事がネットで紹介されていた。記事はその理由の一つとして日本人は収集を好むからだと言う▼そうだろうか。収集家なら世界中にいる。自分もCDというモノを好むが、理由は音楽配信よりはるかに情報量が多いからである。ジャケットというアートがあるし、細かな演奏者のクレジットが記されているし、解説書や歌詞カードまでついている。それらをひっくるめて1枚のアルバムという世界を形成している。好きなアルバムは、曲の配列も、曲と曲との余白も、ジャケットも全てを含めていいのである▼日本人は小さなモノの中に大きなものが畳み込まれ、一つの宇宙を形成しているような在り方を好む。大自然のミニチュアである石庭しかり、掌サイズに天地開闢のドラマを凝縮した茶碗しかり。西洋人は大聖堂の天井を見上げ宇宙と神を感じるが、日本人は3畳ほどの茶室で森羅万象の理(ことわり)を読み取る▼CDが好まれるもう一つの理由は日本人が無類のオーディオ好きということだ。ステレオもまた、大きな音を小さな箱で再現する精巧なミニチュアである▼小さくて精巧なものは、全体の精神が各部分に曇りなく浸透し、また各部分が全体に奉仕して体系として完結する。音楽のアルバムを切り刻み、バラで曲を売りさばく音楽配信のやり方は、日本人の美意識と根本的に異なるのではないか。(桑原)