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風紋記事

2014/11/27

 紋別吹奏楽団の定演でP・スパーク作曲「カーニバル」という曲を聞いた。アルトサックスのソロを前面に出した協奏曲で、サックスは客演の西村直子さんが吹いた。メロディは浮き立つように明るいが、カーニバルの後の哀しさを秘めたような陰影もある。旋回するようにメロディの輪が広がり続け、勢いのあまりキーを外したような音に入るところは、カーニバルという馬鹿騒ぎの空しさを表現しているのか▼ソロに寄り添う紋吹のアンサンブル力を含めて聞き惚れた。それにしてもサックスの響きがなんと伸びやかで官能的であることか▼アルトサックスという楽器はジャズでおなじみだ。エリック・ドルフィーや坂田明が聞かせる咆哮するような無調のサウンドが大好きだが、調性音楽のソロ楽器として聞くアルトサックスは、それとはまた全然異なる。ジャズの魅力が譜面など気にせず自由なアドリブで突き進む豪快さだとすれば、吹奏楽の魅力は譜面に忠実に、一音一音の美しさや音程に神経を張り詰める細心さにあるのだろう▼そういえば黒澤明監督の映画づくりのモットーは「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」だった。細心さは、天使ではなく悪魔の特性であるところが面白い▼バイオリンの超絶技巧曲「悪魔のトリル」は作曲者のタルティーニが、悪魔から伝授されたという。美は時に人間を破滅に追いやる。繊細な美の追求を通して、人が神に近づこうとするのを、神は決して許さないということなのか。紋吹が演奏した「カーニバル」にはそんな悪魔的な魅力があった。(桑原)