←前へ ↑一覧へ 次へ→

風紋記事

2014/12/29

 菅原文太が11月に亡くなった。代表作「仁義なき戦い」シリーズのDVDを本棚から引っ張り出し、最後の「完結編」を久々に見た。戦後の広島を舞台にした暴力団抗争の幕引きを描く。主人公の文太は刑務所に入っていて出番は少ないが、映画は相変わらず面白い▼ヤクザたちが権謀術数を繰り出広げる。政治の権力闘争を見るような人間社会の普遍性がある▼映画が大ヒットした一つの秘密は、広島という一地方を舞台にしたことにあるだろう。その特殊な方言が、地に足のついたリアルさをもたらし、逆に映画の普遍性を高めている。「じゃけんのう」とか「こんな(お前)」などが有名だが、完結編で面白かったのが「ササラモサラ」。松方弘樹演ずるヤクザが子分を引き連れ、敵対する縄張の飲み屋街に乗り込み叫ぶ。「お前ら、かまわんけ、そこらの店ササラモサラにしちゃれ」。めちゃくちゃにぶっこわす、という意味であることは画面を見ていればすぐ分かる▼語源は知らないが、知ればかえって面白くなくなる。コロコロと転がるような語呂のよさがただ気持ちよく、うっとりした▼北海道にも美しい方言はいっぱいある。「じょっぴんかる」は語感がいかにもがっちり鍵をかける感じだし、水たまりに足を突っ込んでしまった時に叫ぶ「タコつった!」は、なぜそう言うのか分からないが楽しい響きだ▼生々しい方言で仁義なき世界を演じきった菅原文太。同じヤクザ映画出身の高倉健は「仁義ある」世界を演じ、どんどん神格化されたが、菅原文太はいつまでも泥臭く人間臭い庶民のスターだった。(桑原)