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風紋記事

2015/01/09

 映画「オーシャンズ11」などで知られるスティーブン・ソダーバーグ監督が最も影響を受けた映画は日本のホラー「マタンゴ」(1963年)だという▼確かにあれは強烈だった。ヨットで無人島に漂着した若者たちが、毒キノコを食べ、次々とキノコ人間化していく。生き残った主人公が精神病院で独白するラストシーンの救いのなさ。「これで映画が終わるのか」。当時の子どもたちは愕然とした。この世には頑張っても解決できない恐ろしいことがあるのだ、と学んだ気がする▼昨年暮れ、若い主婦の方から編集部に苦情の電話があった。紋別のご当地怪獣モンベモンの写真を紙面に掲載したことが不満らしい。「気味が悪い。子どもが嫌がるからモンベモンの写真は今後一切載せないでほしい」と言う。ほのぼのキャラの「紋太」に比べ、モンベモンの顔は確かにグロテスクだ▼「お気持ちは分からないでもありませんが、喜んでいる子もいます。怪獣だから怖い顔をしているのは当然なのでは?」と答えた。納得していただけたかどうかは分からない▼問答を続けながらマタンゴを思い出した。あれに比べればモンベモンの怖さは足元にも及ばない。ソダーバーグ少年はマタンゴを見てキノコが食べられなくなるほどのショックを受けたそうだが、それが映画の道に進むきっかけになった。彼は後年、アカデミー賞の監督賞など数々の栄冠を手にする▼子どもは気味の悪いホラーを見ながら、世界の不条理さに対する免疫をつけていく。それによって心を強くし、困難や悪に立ち向かう勇気を育んでいくのではないだろうか。(桑原)