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風紋記事

2015/02/15

 フランスの経済学者ピケティの著『21世紀の資本』が世界中でベストセラーになっている。資本主義では富める者はますます富み、貧富の格差はどんどん拡大する−。多くの人が薄々感じていることを学問的に「実証」したことが画期的なのだという。なんせ先進各国の過去300年分の税務データを分析して答を出したというから凄い。19世紀に資本主義を批判したマルクスはこれほどの資料を持っていなかったし、持っていたとしてもパソコンのない時代では、処理はおろか整理すらできなかったろう▼ところで一定の格差は人間社会を動かす原動力でもある。貧富だけでなく才能や容姿、家柄等々。人はその格差や、コンプレックスと戦うことで成長する▼問題は、格差のなかでも生きるうえで一番基本的な富の格差が広がり続けるように仕組まれている社会は、夢も希望もないということだ。韓国の航空会社のわがままな副社長が起こしたナッツ・リターン騒動に民衆が飛びつき、袋叩きのように糾弾したのも格差社会に対する鬱屈した怒りの表れだろう▼ピケティは行き過ぎた格差をなくす策として世界的に累進資本課税を強化し、金持ちからこれまで以上に税金を取り立てるべきだと訴えているという。ある意味、身もふたもない結論だが、民衆の蜂起や革命を唱えるよりもずっと民主的でスマートだ▼ただ、金もあり権力にも近い富裕層の抵抗をはねのけ、国境をまたいだグローバルな課税を実施するのは至難の技だ。それはもう経済学者の仕事ではなく、世界中の政治家が連携して考えるべき事柄になるのだろう。(桑原)