風紋記事
18日に行われた吉川忠英さんのコンサートで、松山千春さんと夏川りみさんを聞いた。とりわけ松山さんの人気は絶大で、全国からファンが集まった▼松山さんのステージ1曲目は最新シングルだという「ルックミー」。軽快なテンポの明るい感じの曲だったが、やや拍子ぬけした。抑えた淡々とした歌い方で、往年のメロディの輝きに欠けているように思ったからだ。しかしさすがである。「銀の雨」など代表曲を歌い出すとあの千春ワールドが全開になった。聴衆の首根っこを掴まえて、どうだ!と聴き入らせる力がある。聴衆は教祖様の説法に頭(こうべ)を垂れる信者みたいだ。皮肉ではない。それだけのカリスマ性があった▼歌い終わると松山さんはため息をついた。「やっぱ昔の俺の曲はいいな。安定感がある。最初にやった曲とは違うわな」。会場はどっと笑いに包まれた。みんな同じことを感じていたのだろう。カリスマでもこんな人間くさいぼやきを言うのか。むしろ、ほっとした▼その「ルックミー」をユーチューブで聞き直してみた。レゲエのリズムに乗った、ゆったりとした曲調。肩の力を抜いた歌唱も曲の雰囲気に合っている。松山さんのかつての名曲は、天に昇っていくような高音が凄くて口ずさむのが難しいが、これなら軽い気持ちで歌えそうだ▼「飛行機は飛び立つ時より着地が難しい。人生も同じだ」と言ったのは本田宗一郎だった。あのイチローでさえヒットが出なくて苦しんでいる。肩ひじ張らない曲は、もうすぐ60歳になる松山さんがリラックスして選んだ新しい方向性なのかもしれない。(桑原)