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風紋記事

2015/10/18

 言ってることとやってることが全然異なる人は多い。「地球の限りある資源を大切にすべきだ」と偉そうに言う人に限って日々の分別ごみの出し方はでたらめだったりする▼その人の言葉だけを聞いて言行一致かどうかを見抜く方法はあるか。ない。しかし、うさん臭いと直感することはできる。たとえば、綺麗ごとしか言わない人。自分で自分の言葉に酔っているような人である▼マルクスの伝記の決定版といわれるフランシス・ウィーン著「カール・マルクスの生涯」(朝日新聞社)を読むと、マルクスの言行不一致ぶりが意外で面白い。資本主義の打倒を訴えた彼だが、生活はブルジュア趣味で、金欠なのに贅沢品を買い込んだり、見栄で高い給料の秘書を雇ったりする。共産主義の理想に燃えて、仲間と財布を一つにする共同生活を始めるが、その窮屈さに2週間で喧嘩別れする。マルクスを援助し続けた天才エンゲルスは繊維工場の跡取り息子。妻以外に愛人がおり、さらに外で派手に女遊びをしたりする。マルクスへの手紙のなかで遊びを勧めたりしている▼その思想の硬派ぶりに比べて、彼らの実生活は結構いい加減だった。弱者の救済に燃えた彼らの著作は今も学ぶべき点があるにしても、そのくそ真面目で禁欲的な思想は、その後の歴史において非民主的な独裁国家群を作り出す契機にもなった▼マルクスが己の弱さを隠さず、贅沢品を蕩尽する快楽を素直に語っていたら、後の歴史は変わったろう。東西冷戦の構図など生まれなかったかもしれない。凡人の言行不一致はご愛嬌だが、偉人のそれは罪である。(桑原)