風紋記事
正月に寝ながらNHKFMの深夜番組「ロック巌流島」を聞いていた。音楽評論家の萩原健太氏とミュージシャンの近田春夫氏が、ロックの名曲を紹介するシリーズ。4日の放送分はカーペンターズ特集だった。誰もが口ずさめる保守的なアメリカンポップスの代表で、硬派なロックファンは馬鹿にしがちなカーペンターズだが、萩原氏は「彼らの演奏力は見事で、ロックの魂を体現していた」と言う。近田氏もうなづく。「昔、彼らが音楽祭で初来日した時、ゲスト出演なのにバックバンドやスタッフのほかPA(音響機材)も全てアメリカから持ち込んで凄い演奏をした」と褒めちぎった▼カーペンターズの兄妹はデビュー前にジャズを演奏していたことはよく知られているが、番組では当時の貴重な演奏も紹介した。初めて聞くその演奏にびっくりして寝床から身を起こした。兄リチャードのピアノ、妹カレンのドラム、低音部は定番のベースではなくて管楽器のチューバという奇妙な編成のトリオ。ピアノの高速パッセージが延々と続く怒涛の演奏は、オーソドックスなジャズとはほど遠い。チックコリアが一時やっていた前衛ジャズに近い感じだ▼そんなカーペンターズが、ひとたびポップスに転向すると、その過激さをオブラートに包み、耳あたりのいい編曲で、3分程度の曲を演奏し続けた。真の名人は高度なことを当たり前のようにやるので、その凄さに誰も気づかないというが、カーペンターズはその境地に達していたのかもしれない▼複雑なことを平易に、だらだらと書かず短く。これは記者の目標でもある。(桑原)