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写真家の細江英公氏は、戦後の日本の政治・経済をリードしてきた人物を撮影し続けてきた。その細江氏が言う。「敗戦後、瓦礫を整理しながら立ち上がって来た当時の日本人は、今の世界不況どころではなかった。何故これ程の国に復興できたのか。それはそれまでに蓄えてきた気持ちの問題が大きいのでは」・▼さらに「世界に誇る経済的繁栄をもたらした開拓者達には、強烈な気骨が感じられた。想像を絶する大変な苦労を決して悲劇的にとらえず、それをバネに、強い精神で切り抜け育ててきた。自らの身を滅ぼしてでも公のために・という気高い心があった。その気骨ある生き方が顔に表れていた」と言う▼細江氏にとって、カメラのファインダーを通して見る今の人達の顔は、ひ弱で魅力が薄れたものになっている。彼は1961年に、作家「三島由紀夫」氏の写真集作成に没頭した。「あの方は、類(たぐ)い希(まれ)に見る根性の持ち主でした。三島さんの憂いていたことを、今振り返ってみると、いろいろ当たっていると思います」と言う。そんな顔を持った人には、あれから会っていないそうだ▼「顔」には、その人の環境とか人格、内面的なものが表れる。そして「時代」も表れるのではないだろうか。難題に対して、自らが手がけるより完成されたものを求める。それが成されない時は他人のせいにする。そんな風潮が、政治にも経済にも、私達の日常の生活にも表れているのではないだろうか▼恐ろしいのは、それら「待つ」姿勢が日本人に定着してしまい、逆境を切り抜ける力強いエネルギーが、次第に消えて行くことである。細江氏は「当時の人は、人間としてどうなのか・を自分に問い、生きてきた。今はそれを取り戻す時でないか」と言う。