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デスク記事

2009/03/11

 見過ごせば何という事のないことだけど、私にはどうしても不思議・と思われることがあった。それは港祭りなどの露店で良く見る、砂糖菓子の型抜きである。子ども達が真剣になって、砂糖菓子に掘ってある動物や花などの型を、完全な形で抜こうと真剣になっている▼とても根気の要る作業に見える。細長い彫刻刀のような道具で、形の溝に添って慎重に指先を動かす。早く抜こうとすれば、形はあっけなく崩れる。息を詰めて、神経を集中させて、それでもうまく行くとは限らない。だから、多くの子ども達が集まっているのに、そこだけは静かだ▼不思議なのは、景品と言っても、そんなに努力する程のものではない。それでも子ども達の目は生き生きと輝く。景品目当てでないことはすぐに分かる。彼等は、うまく型抜けした時の達成感に挑戦しているのだ▼日本経済新聞の文化欄に、この型抜き菓子を作る、大阪の「ハシモト」という会社の橋本社長の話が載っていた。菓子職人の父を継いで、この型抜き砂糖菓子を製造している。恐らく国内唯一の菓子店で、試行錯誤の末考えついた砂糖菓子だ。「型抜きが難しいものもありますが、子ども達は失敗しても笑顔。景品より達成感を求めているのです」と話している▼新聞社を辞め、父親の意志を継いで型抜き砂糖菓子作りに人生の意味を感じている。全国の子ども達と、見えない糸で結ばれているからだ。単純と思われるこの型抜き。夢中になっている子ども達の表情を見ていると、その昔、自分が夢中になって遊んだものを思い出す。単純すぎるほど単純な遊びながら、遠い昔、その遊びに没頭した自分がいた。今年の港祭りに、砂糖菓子の型抜きに挑戦してみようと思った。